働き方改革

働き方改革と社労士~その1~

働き方改革と社労士

働き方改革と中小企業

中小企業の経営者にとって働き方改革は、結構頭の痛い問題となっています。長時間労働の上限時間規制や有給休暇の取得義務、同一労働同一賃金、中小企業への時間外労働の割増賃金率猶予措置の廃止等々。
これまで法で定める労働条件を満たす労務管理ができていなかった企業にとっては、大きな問題担っています。
働き方改革は、単純に労働時間を短くしたり、有給休暇を取得させたりすればいいというものでは無く、人口減少社会において、労働生産性を高めることにより企業の業績向上、ひいては国としての競争力を向上させることを目標としています。その理念は賛同しているけれども、中小企業ではなかなか取り組めていない現状があります。
取り組めていない理由は、「人員に余裕がない」「何に取り組んでよいか分からない」「効果が分からない」などとなっています。
中小企業では、元々が長時間労働(変形労働時間制などを利用して週40時間労働でない企業はざらにある)であるのに加えて、納期に間に合わせるための残業は日常茶飯事、有休を取るなどはもってのほか、的な会社も多数存在しています。つまり、適切な労務管理に取り組む余裕がなく、ノウハウも持ち合わせていないのです。
さらに、人手不足が働き方改革を阻害する要因になっています。日本銀行による「全国企業短期経済観測調査」では、人手不足は全業種・全規模で過去最悪のレベルになっています。
人手不足だから働き方を改善しなければならないけれども、一方、人手不足なので働き方改善に手が回らない。この二律背反した問題に取り組まなければいけない。「労働力の確保と生産性の向上をワンセットにして対策を打っていかなければならない」のです。

しかし、繰り返しますが「働き方改革は残業を減らしたり有給休暇の取得率を上げればよいという単純な対応で済むものではなありません。」残業を減らすための作業効率化を行わず、作業を所定時間で終わらせることだけを強制したりすれば、従業員は疲弊するだけで働き方改革のメリットをまったく享受できず、共感も得られないでしょう。中小企業の働き方改革では従業員のモチベーションを低下させること無く事を進める必要があります。

働き方改革の実践には、ある決まったパターンはありません。

まず現状を分析し目標となるターゲットを定める。そこはみんな一緒ですが、実現する方策は会社によって異なるのです。『うちも働き方改革をやる』とだけ宣言しても、理念先行ではけっしてうまくいかないでしょう。

具体的には『残業は当たり前』に狙いを定めて集中した改善策を探り、結果的に労働生産性向上を目指す取り組みや。
「就業規則をきちんと見直して現在の法に適合したものにするだけで、高い改革効果を得られている」場合もあります。
「今回改正の対象となっている残業時間や割増賃金率、休暇制度などについて、きちんと定めた就業規則を作り実践すれば、それだけで働き方が変わる。その上で改善しなければならない事項が浮かび上がってくればそこを改善していく」そんな取り組みもあります。

社労士はさまざまな業種・業態、規模の経営現場に入り、そこで得た豊富な現場経験を基に、一社一社の実情に応じたきめ細かなアドバイスをすることができる。それは、経営者に「うちでもできる」という自信を与え、一歩を踏み出す後押しにもなっている。
専門家と相談相手の両面を併せ持った社労士は、経営者とそこで働く従業員のパートナーとして「人を大切にする企業」づ
くりを支援し、生き生きと働ける職場づくりをお手伝いしています。

社会保険労務士会が運営する働き方改革支援センターのご案内

社会保険労務士は働き方改革を支援します。

社会保険労務士会が運営する「働き方改革推進支援センター」

「働き方改革推進支援センター」の主な支援内容(事業主対象)

長時間労働の是正
同一労働同一賃金等の非正規雇用労働者の待遇改善
生産性向上による賃金引上げ
人手不足の解消に向けた雇用管理改善

以下のようなお悩みはございませんか?

36協定について詳しく知りたい
非正規の方の待遇をよくしたい
賃金引上げに活用できる国の支援制度を知りたい
人手不足に対応するため、どのようにしたらよいか教えてほしい
助成金を利用したいが利用できる助成金が分からない

など

就業規則の作成方法、賃金規定の見直しなどを含めたアドバイスを行います。

具体的には、以下の支援を実施していますので、お気軽にご利用ください

個別相談支援

・窓口相談、電話、メールによる一般的な相談の受付
・企業へ直接訪問し、事業主の方が抱える様々な課題について親身に対応
・商工会議所・商工会・中小企業団体中央会等と連携し、より身近な場所での出張相談会の実施

労務管理セミナー

・「時間外上限規制」、「同一労働同一賃金ガイドライン案」への取組みの周知、36協定の締結や就業規則作成に当たっての手続方法、その手法に合わせた労働関係助成金の活用等について、セミナーを開催

サポート体制

・社会保険労務士が、実際に支援を行った事例を紹介
サポート事例

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有給休暇を5日消化させるのは事業主の義務になりました。

働き方改革関連法により、2019年4月からすべての企業において、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、使用者は時季を指定して年5日間の年次有給休暇の取得させることが義務化されました。今までは年次有給休暇を取るか取らないかは労働者に任せている企業が多く、周りに気兼ねして有給を取りたくても取れない労働者も多くいました。今回の改正では、年次有給休暇を「必ず取らなくてはならない」ものとしています。結果、制度の趣旨に沿ったものとなることが期待されています。

有給休暇とは

有給休暇とは、労働者が給与を得たままで仕事を休むことができる法律上の制度です。これは、「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨」の制度と説明されています(平成21年5月29日基発0529001号)。

年次有給休暇の発生用件は、以下の2項目になります。

  1. 雇用された日から6カ月継続して雇われている。
  2. 全労働日の8割以上を出勤している

これらを満たしている場合、勤続年数に応じて有給休暇が付与されます。また、対象者は正規雇用だけではなく、非正規雇用(パート・アルバイト・派遣など)や、労働時間規制が除外される「管理監督者」「高度プロフェッショナル制度適用者」も含まれます。ただし、パートタイムで働いているなど、所定労働日数が少ない場合は、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。

(※)高度プロフェッショナル制度とは、対象業務や年収などの一定要件をクリアすれば、残業代の支払いが不要となる制度のこと。

有給休暇の付与日数

通常の労働者の付与日数

有給休暇は、6ヶ月間勤務しており、かつ、8割以上出勤した労働者に10日与えられます。さらに、1年6カ月間勤務した場合、1日増えて11日の休暇、2年6カ月で12日、3年6カ月で2日増えて14日、4年6カ月で16日、5年6カ月で18日、6年6カ月以上で20日と増えていきます。

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数

週の所定労働日数が4日以下・週30時間未満のパートタイム労働者または、年216日未満のパートタイム労働者(アルバイト、嘱託なども含む)の有給休暇の日数は上記より少ない日数が別に定められています。このことを、「比例付与」と言います。
<該当者>
1.週の所定労働時間が30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下
2.週の所定労働時間が30時間未満かつ年間の所定労働日数が216日以下(週の日数把握が難しい場合に適用)

有給休暇の付与日数について詳しく知りたい方はこちらをクリック

5日以上の有給休暇取得義務(今改正で新規制定されました)

平成31年(2019年)4月1日から、年10日以上の有給休暇を得ている労働者に対して(大企業・中小企業問わず)会社は、最低5日の有給休暇を取得させることが労働基準法上の義務となりました。今までは、労働者が自ら申し出る事により有給休暇を取得してきましたが、改正後は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者を対象に、使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に取得時季を指定して5日間の年次有給休暇を取得させなければいけないことになりました。時季指定については、労働者の希望を聞いて、可能な限り労働者の希望に沿った取得時季になるように努めなければならないとされています。ただし、労働者が自ら5日以上取得できる場合は、会社が時季指定しなくても良いとされています。

「年次有給休暇管理簿」の作成と3年間の保存が義務化された

今回の改正に伴い、使用者は「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存しなければいけないことになりました。これは、年次有給休暇の年5日間の消化が義務になり、使用者は各労働者の有給取得状況を把握・管理し、5日未満の場合は取得を促す必要が出てきたためです。

年次有給休暇管理簿には、労働者ごとの年次有給休暇の時季や日数の基準日を記載し、年次有給休暇の期間中1年と、満了後3年間の保存をします。労務管理ソフトなどをお使いの場合は年次有給休暇管理簿は、労働者名簿又は賃金台帳と合わせて調整できるようになっている場合も多いかと思います。

違反した場合は罰則も

これまでは、有給を使うかどうかは労働者に任され、休暇を取らなくても構わなかったのですが、2019年4月以降は、年最低5日は労働者に有給を取らせないと労働基準法違反となり、違反の場合には、使用者に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が発生します(労働基準法第119条)。なんらかの形で法律違反をしていることが発覚した場合、即罰則が与えられるのではなく、労働基準監督署から何度も指導が入り、改善が見られない場合に科される事になるでしょう。

残業(時間外労働)規制

残業規制

時間外労働の上限規制のポイント(2019年4月から)

働き方改革による労働基準法改正で、労働時間に関する規制が強化されます。主なものは次のようなものです。
1.残業時間の上限規制により、月45時間、年360時間までの残業が基本となる。(現状と同じ)
2.特別条項つき36協定を用いることで、1年で6回までなら、1ヶ月の残業時間を100時間まで。1年の残業時間上限も720時間まで。(厳しくなります)
3.2019年4月から(上記1.2の)残業時間の上限規制が適用される。ただし中小企業は1年後の2020年からです。
4.タクシー、トラック運転手や医師など一部の業種に残業時間の上限規制は2024年から適用されます。

時間外労働の上限規制とは

今まで時間外労働の上限規制はどうなっていたのでしょう?本来、法定労働時間(週40時間1日8時間)を超えた労働は違法ですが、36(さぶろく)協定を締結すれば残業(時間外労働)をさせても良いということになっています。但し、36協定を届け出たからといって、無制限に残業をさせても良いというわけではありません。しかし、一時的に残業が増えることはどこの会社にもあり得ます。そのような時は36協定の特別条項を利用し残業時間を一時的に増やすことができました。

特別条項付きの36協定を締結することで、1年のうち6ヶ月に限り残業時間の上限規制が撤廃されます。1ヶ月×6回の合計6ヶ月間のみ、36協定で定められている時間を超えて無制限に残業させることができました。

この状況を改善するために働き方改革により、36協定による残業時間の上限規制をより強固にすることになりました。

働き方改革関連法施行前の限度基準告示による上限は罰則はあるものの強制力はなく、特別条項を設けることで実質は上限なく従業員に時間外労働を行わせることが可能でしたが、今回の改正によって労働時間の上限が法律によって定められ、臨時的な特別な事情がある場合でも上限を上回ってはならないとされています。守れなかった場合は罰則もあります。

年間での時間外労働の上限規制について

働き方改革による労働基準法の改正により、残業時間の上限規制が厳しくなり、特別条項付き36協定を締結しても、残業時間に制限が設けられるようになりました。

今までは年6回限定で、1ヶ月間の残業時間を無制限にできましたが、法改正後は1ヶ月の残業時間の上限が100時間に定められました。特別条項を利用しても、月100時間以上残業させたら違法になるのです。

2019年4月以降の残業時間の上限

1.平時の残業時間上限は、1ヶ月で45時間、1年で360時間。(今までと同じ)
2.特別条項を利用した場合、1年で合計6ヶ月の間だけ、月の残業時間上限が100時間まで延長できる。(但し、休日労働の時間も残業時間に含める)
3.特別条項を利用した場合、1年720時間以内の残業が認められる。
4.特別条項があっても、残業時間には複数月平均80時間以内の制限が設けられる。(休日労働の時間も残業時間に含める)

前述の通り、今までは36協定の特別条項を締結することで、時間外労働の上限規制を超えて労働させることができました。しかもこの特別条項には時間外労働の上限に関して明確な法律の定めがなく、長時間労働を指摘されても「年720時間以内が望ましい」という行政指導を受けることがある程度のものでした。

改正後も、基本的に時間外労働は月45時間・年360時間に収めなければならないことは変わりません。また、特別条項を締結しての時間外労働は認められますが、年間720時間以内・月100時間未満・複数月平均80時間以内(休日労働も含む)・時間外労働45時間超えは年6カ月以内という条件をすべて満たさなくてはならなくなりました。これに違反した場合は、法律により罰金30万円or6カ月以下の懲役の罰則が科される可能性あるので注意が必要です。

複数月平均とは新しい概念なので解説します。

時間外労働時間は「複数月平均80時間以内」に

「複数月平均80時間以内」とは

例えば12月時点でこの基準に合致しているかを確認する場合、7~12月(6カ月平均)・8~12月(5カ月平均)・9~12月(4カ月平均)・10~12月(3カ月平均)・11~12月(2カ月平均)のいずれの場合でも平均の時間外労働が80時間を下回っている必要があります。

1つでも時間外労働時間が平均80時間を超えていると、12月の時間外労働は違法なものとなるため残業時間の管理が重要になります。

中小企業は2020年4月から適用されます

大企業では2019年4月1日から残業時間の上限規制が適用されますが、中小企業の場合は1年遅れて2020年4月1日からとなります。

規制を除外・猶予される事業や業務

中小企業への上限規制適用に猶予があるのとは別に、残業時間の上限規制に対する除外や猶予の措置がとられている事業が存在します。残業規制が遅れて適用される、または規制そのものが適用されないのは、以下の事業です。

土木、建設などの建設業・・・2024年4月1日

病院で働く医師・・・2024年4月1日

自動車を運転する業務(タクシー運転手など)・・・2024年4月1日

新技術や新商品などの研究開発業務・・・上限規制は適用されない

こちらに詳しく載ってます↓

働き方改革総合リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

その他の改正点

中小企業も時間外労働の割増賃金が50%へ引き上げられる(2023年4月より)

時間外労働が発生すると労働基準法の定めにより、割増賃金を支払う必要があります。割増賃金は2008年の労働基準法改正により、大企業では月60時間を超える場合の時間外労働の割増賃金が50%に引き上げられました。中小企業には猶予されていましたが、働き方関連法の改正により2023年4月より割増賃金の引き上げが中小企業にも適用されることになります。

罰則について

2019年4月以降、上限規制を超えた違法な時間外労働に対して罰則が科されるようになります。さらに、臨時的な特別な事情がある場合であっても上回ることのできない上限が設けられました。これにより、時間外労働の上限規制に違反した場合、半年以下の懲役か30万円以下の罰金が科されることになります。

違法労働となる例

36協定を締結していない場合、そもそも法定労働時間を超えての労働が違法になります。そのため、1日8時間もしくは週40時間を超えての労働自体が違法になります。

36協定を締結・特別条項を締結していない場合は、週15時間、1カ月45時間を超過しての時間外労働が違法になります。

36協定・特別条項のどちらも締結している場合は、下記のいずれかに該当する場合が違法になります。

年6回を超えて月45時間以上を超える時間外労働をさせること
月100時間以上の時間外労働をさせること
複数月の平均時間外労働時間が80時間を超えること
年720時間を超えて時間外労働をさせること

有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利

湯給を取得する権利を時季指定権、期日を変更させる権利を時季変更権といいます。

有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利

年休の時季指定権(有休を取る権利)

労働者が有給を取得するのは、どのような目的で取得しても自由であるとされており、どの労働日に取得するかについての決定権も、時季指定権として労働者に認められています。使用者はその指定された日に与えるようにしなければなりません。

年休の時季変更権(有給の取得日を変更してもらう権利)

労働基準法は、労働者に年次有給休暇を取得する日を指定する「時季指定権」を認めるとともに、会社には「事業の正常な運営を妨げる場合」には取得日(取得時季)を変更することができる「時季変更権」を認めています。
「事業の正常な運営を妨げる場合」かどうかは、その事業場を基準として、事業規模、内容、労働者の担当業務、作業の繁閑、代行者の配置の難易などを考慮して、客観的に判断されるべきとしています。たとえば、年末・年度末のような繁忙期や、風邪を引いて休んでいる人が多く人員配置の面で問題が生じる場合などが考えられます。実務上は、現場で支障が出ないように調整をするようにします。

時季変更権に関するトピック

退職日が間近なものの有給休暇申請に対する時季変更権の行使

退職予定日が20日後の労働者がその時点でいまだ20日の年休を有している場合その退職予定日を超えての時季変更はすることができません。年休は「労働の義務を免除する」ものであり労働の義務のない退職者に与えることはできないからです。

有給休暇の当日申請は「時季変更権」を行使できる

有給休暇は一般的に前もって申請するのが望ましいとされ、労働者が会社に対して有給休暇を取得したいと申し出る日(時季指定権を行使する日)については、法律上の定めはありませんが、会社が事業に支障が出るかどうか判断するだけの時間的余裕を持って申し出る事は当然である(「会社が時季変更権を行使するための時間的余裕をもってなされるべきことは事柄の性質上当然である」)とする裁判例があり、有給をその日に与えることが事業の運営に影響を与えるかどうか判断するために必要な「合理的な期間」であれば、有給休暇の申請期限を設けることも可能です。現実に就業規則には「有給休暇の申請は〇日前までに行わなければならない」と申請期限を定めている会社がほとんどでしょう。

一方、急病などの理由で有給休暇を当日申請されることも少なくありません。しかし、会社によっては当日に休まれると困るようなケースもあるでしょう。

この場合会社は、労働者からの申請を却下することは可能なのでしょうか?

就業規則で定められている申請期限が「合理的な期間」である限り、申請期限までに行われなかった有給休暇の申請については、それを認めなかったとしても違法ではありません。よって、親族に急な不幸があった場合などのように労働者側に正当な理由がある場合ならともかく、単に遊びに行くためなどの理由で就業規則上の定めに違反して有給を請求するのは労働者の権利の濫用といえるでしょう。

有給休暇の当日申請却下が「不当と判断されるケース」もある

ただし、あらかじめ定めた申請期限までに行われなかった申請が、必ず「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するわけではありません。

申請期限後の申請であっても、当該労働者の担当する作業内容、性質、繁閑の程度などを総合的に勘案した結果、代替要員の確保などの必要性がなく事業の正常な運営を妨げるとは言えない場合には有給休暇を取得させないことを不当と判断される可能性があります。

また、年次有給休暇の当日申請は、先に述べた通り法律上は事後申請の扱いとなりますが、労働者から個別に争われた場合(裁判を起こされた場合)には、実質的に事前(始業前)に行われている申請を、法律上事後申請となることを理由に拒否することは、不当と判断される可能性が否定できません。

結局のところ、当日に行われた有給休暇の申請であっても申請期限後の申請であることや当日申請であることを理由に一律にその取得を拒否することはできず、事案ごとに個別に取得の可否を判断する必要があります。

会社のルールとしては当日申請がやむを得ないことであることを確認するため医療機関のレシートや診断書などの提出を求められるようにしておき、有給休暇を認めないことの妥当性や必要性を、慎重に判断することを心掛けましょう。

時季指定権と時季変更権の関係

結局のところ労働者には有給休暇の時季指定権(日にちを指定して有給休暇を取得する権利)があります。もちろん、いちいちなぜ休むのか言う必要はありません。しかし、会社側には時季変更権があります。(事業の正常な運営を妨げる場合は他の日に休んでもらうようにしてもらう権利があります。)会社から時季変更権の行使をほのめかされれば、なぜ休むのか、その日に休む必要があるのかは伝えなくてはならないでしょう。同一の日に有休を取得したい人が複数人出れば当然、事業の運営に支障を来すことが考えられますから、そうした場合、会社は、当人同士で調整して欲しいと言うことになるでしょう。それができなければ、公平を期すために全員認めないという判断も十分考えられます。

有給の計画的付与は有給の5日付与義務化に有効

有給休暇

有給休暇とは、簡単に言うと「賃金の保障された一定の日数の休暇」を付与することによって、 労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的とするものです。(有給休暇の詳しいことは「有給休暇とは」を参照)

年次有給休暇は一番多くなると1年で20日付与され、それが翌年まで繰り越すことが可能なので、理論上は最大40日まとめて休むことができます。そしてこれが現実的に起こるのが、退職時です。40日を一気に使うとほぼ2か月分、会社は労務の提供ない相手に対し賃金を支払わなければなりません。(退職時に請求された有休に対しては会社は時季変更権(業務上支障があるからといって他の日に有休を変更してもらう権利)を行使出来ません。)

これは企業にとって(特に中小企業)には大きな問題です。そこで、対策としておすすめなのが年次有給休暇の計画的付与ですが、なんとこの計画的付与は有給休暇5日取得の義務化にも有効なんです。

計画的付与で会社の指定する日に社員に有給を与える

計画的付与とは年次有給休暇の5日を超える部分の取得日を決めて取得させる制度のことです。(労働基準法39条第5項)「計画的付与」は労働者各人の付与日数のうち5日を超える部分について「労使協定」を締結することにより、計画的に与えることができます(この協定は、届け出不要です)。前年度と今年度合わせて40日分の有給がある労働者の場合、最大で35日分を計画的付与することができます。今年から始まった「働き方改革」による有給休暇5日取得の義務化ですが、労働者が自発的に有休を取れる環境にある会社はそれで良いのですが、なかなか有休の消化が進まない職場においては、この有給休暇の計画的付与は有効な方法です。
たとえば、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始といった大型連休の実現に年次有給休暇の計画的付与が利用できます。この制度は、年休の取得を促進し、年間労働時間を短縮することに大きく貢献しています。但し、現在会社休業日として、大型連休を実現している場合それを、有休に切り替えてしまうと「労働条件の不利益変更」と見なされる可能性が大きいので慎重に事を運ぶ必要があります。

「年5日有給休暇を与えることの義務化について絶対やってはいけないこと」参照(現在編集作業中に付きリンク切れ中)

計画的付与の方法

1)社員全員一斉に取得させるもの、2)グループごとに取得させるもの、3)個別に取得させるものの3方式があります。

社員全員一斉に取得させるもの

例えば、GWの飛び石連休などの労働日を計画年休とし、会社全体で休日とするものです。
この場合、対象者のうち年休日数のない(少ない)者には、有給休暇を特別に与えるか、労働基準法26条に定められた休業手当を支払うかのいずれかをする必要があります。

課、班別などのグループごとに取得させるもの

労働者をA班とB班に分け、A班は8月1日から5日まで、B班は8月6日から10日までというように、交代で年休を取得するように計画し会社自体は営業するというものです。
会社は営業しているので、「有休の足りない人は出勤」で対応出来ます。

個人別付与方式

社員に希望を聞き、会社としてのバランスを考え、有休を取得するものです。

有給休暇の計画的付与に関する手続き

計画的付与には就業規則に規定を置き、労使協定を締結することが必要です。

就業規則

就業規則に「付与した年次有給休暇のうち5日を超える部分については、従業員の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などのように定めることが必要です。

労使協定

従業員の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する必要があります。

労使協定の内容

(1) 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)
(2) 計画的付与の対象日数
(3) 年次有給休暇の計画的付与の設定

  1. 事業場全体の休業による一斉付与の場合には、具体的な年次有給休暇の付与日
  2. 班別の交替制付与の場合には、班別の具体的な年次有給休暇の付与日
  3. 個人別付与の場合には、年次有給休暇付与計画表を作成する時期、作成の仕方等(実際の有休取得はその表による)
(4) 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
(5) やむを得ない事情で、有休指定日を変更する場合の手続き

*時間単位年休は、個々の労働者に対して時間単位による年休の取得を義務付けるものではなく、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、労働者が請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるというものであることから、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。

計画的付与にあたって次のことを確認しましょう。

計画的付与の対象から除く者

計画的付与の対象期間中に育児休業や産前産後の休業などに入ることがわかっている者、また、定年などあらかじめ退職することがわかっている者については、労使協定で計画的付与の対象からはずしておきます。
なお、特別の事情により年次有給休暇の付与日があらかじめ定められることが適当でない労働者については、年次有給休暇の計画的付与の労使協定を結ぶ際、計画的付与の対象から除外することも含め、十分労使関係者が考慮するよう指導すること。
(昭和63.1.1 基発1号)

対象となる年次有給休暇の日数

年次有給休暇のうち、少なくとも5日は従業員が自由に取得出来ることが必要です。

計画的付与の効果的活用法

夏休み・年末年始の休暇に組み込み、大型連休としたり、暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、連休とします。そうすることにより、旅行に行ったりする日付を少しずらしたりできます。高速道路の渋滞に巻き込まれるなどの余分なストレスを感じないでゆっくり休むこともできます。又、会社外での社員同士の交流も進みそうです。大きくライフスタイルの変化が生じてくれば、それこそ「働き方改革」の目的に近づいている証拠かもしれません。生活を楽しみつつ、しっかり労働して生産性を向上させるために有休を効果的に使いたいものです。又、業種によっては個々バラバラに有休を取得されると問題が生じる業種やなかなか有休を取得出来ない業種にはおすすめです。

有給休暇をしっかりと取得できる企業として社会から認知されることは、優秀な人材の確保や労働者の定着率の向上につながります。計画的付与を活用しながら、有給休暇の取得を促進しましょう。

有休の取得促進法

日本の有休取得率は50%でエクスペディアの調査対象国では最下位、ワースト2位のオーストラリアでも70%なので大差をつけられています。その理由の一つとして、「他の人に迷惑がかかる」というのがあげられていますが、日本人らしい気配りでしょうか、それでも、計画的付与なら会社としてお休みになるので気兼ねなく休めるのでは無いでしょうか。それ以外にも、従業員本人の誕生日や結婚記念日、子どもの誕生日などを休暇とする、いわゆる誕生日休暇がありますね。これも全員かならず回ってくるのでお互い様でしょう。その他の取得促進策としては、「業務の比較的閑散な時期に年次有給休暇を計画的に付与する」事により業務に支障なく有休取得率を上げることができます。働き方改革で有休取得促進、労働時間の短縮は国策化されている感じですので事業主としては、いろいろ手を尽くして取得率を向上させるように考えなくてはならないでしょう。

 

計画的付与が決定したあとで、使用者の都合で時季変更ができるのか?

労使協定による計画的付与において、指定した日に指定された労働者を就労させる必要が生じた場合であっても、計画的付与の場合には第39条第4項の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない。

(昭和63.3.14 基発150号)

すなわち、使用者は「請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる」という事情があった場合も、計画された年休の時季を別の時季に代えることができないとされています。計画的付与日を変更することが予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。

労働者都合による変更

労使協定の中に特段の定めがなければ、個別に対応することになります。

年休の日数が不足する労働者の場合

計画年休に充当する年休日数が不足する労働者には、「付与日数を増やす等の措置が必要」としています(昭和63.1.1 基発1号)

計画的付与が原因である有給休暇日数の足りない労働者の欠勤は、労基法26条に規定する「使用者の責に帰すべき事由」による休業として取り扱われます。
「足りない分の日数を別に付与したり、計画的付与の対象外にする等の措置」をとらずに当該労働者を休業させる場合には、労働契約や労働協約、就業規則等に基づき、賃金、手当等の支払を定めているときは、当該労働契約等に基づき当該手当等を支払う必要がありますが、そうでない場合であっても、少なくとも労働基準法第26条の規定による休業手当の支払(平均賃金の100分の60以上)が原則として必要です。

つまり、労働者は使用者に対して、休業手当(平均賃金の100分の60)を請求することができることになります。(昭和63.3.14 基発150号)

有給休暇とは

有給休暇の取得を上手に進め企業経営に生かしましょう。

一昔前の経営者には「従業員に休みを与えるなんてもってのほか」とか「うちの会社に有給休暇なんて制度は無い」といった考え方をしている方がいらっしゃいました。まあ、ご自分は寸暇を惜しんで働き、成功してきたのですから、その成功体験に縛られてしまうのも理解できなくは無いですが、有給休暇は法律で認められた労働者の権利で有り、また、休暇をうまく活用することにより心身ともにリフレッシュして効率アップに繋がるといった効果も現在では認められています。

有給休暇はどのような労働者にも必ず与えなければいけないのか

年次有給休暇の権利は労働基準法第39条の所定の要件を満たした労働者に、法律上当然に生ずるものです。そして正規・非正規を問わず所定の日数付与しなければいけません。

年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、会社を欠勤すると賃金は減額されるのが普通ですが、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金がそのまま支給される休暇のことです。従って、病気のためとか理由を限定されることは無く、旅行に行ったり、単に家でぶらぶらしてても、パチンコに行くためでもかまいませんし、そもそも会社に理由を告げる必要はありません。

しかし、後述するように会社には日時をずらしてもらう権利がありますので、その際には、どうしてもこの日でなければならない理由を告げることが必要になるかもしれません。(法的には必要はありませんが、会社で仕事をする以上あまり突っぱねてしまうと後々やりづらくなってしまいますからほどほどにしましょう。)

年次有給休暇の付与要件

年次有給休暇は「雇い入れの日から6か月継続して勤務」し「その期間の全労働日の8割以上出勤した」労働者に対して付与されます。

一般労働者の年次有給休暇

上記の要件を満たした労働者には、10労働日の年次有給休暇が付与されます。

また、最初に年次有給休暇が付与された日からの「1年間の全労働日の8割以上出勤」した労働者に11労働日の年次有給休暇が付与されます。
その後同様に要件を満たすことにより、次の表1に示す日数が付与されます。(付与日数は最大20日まで)

条件を満たさなかった場合(出勤率が8割以下)その年は有給休暇を付与されませんが、翌年条件を満たせば1日プラスした日数が付与されます。
例:今年12日有給休暇をを付与されていたが病気をして、出勤率が8割に満たなかった場合、翌年は有給休暇はありません(本来は14日)が、その年に8割以上出勤すれば、その翌年(2年後)には16日が付与されます。(表1参照)

表1:一般の労働者(週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者、又は1年間の所定労働日数が217日以上の労働者)の年次有給休暇付与日数

雇入れの日から起算した勤続期間 付与される休暇の日数
6か月 10
1年6か月 11
2年6か月 12
3年6か月 14
4年6か月 16
5年6か月 18
6年6か月以上 20

引用:政府発行資料 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html

パートやアルバイトなどの年次有給休暇

パートやアルバイトだからといって有給が無いと言うのは誤りです。パート労働者など、所定労働日数が少ない労働者についても所定の要件(上記の一般の労働者と同じ)を満たせば年次有給暇は付与されます。
ただし、上記の場合よりも少なく、次の表2のとおり比例的に付与されます。

表2:週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下、又は1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者の年次有給休暇付与日数。

週所定
労働日数
1年間の所定
労働日数
雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
4日 169日~216日 7 8 9 10 12 13 15
3日 121日~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73日~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48日~72日 1 2 2 2 3 3 3

引用:政府発行資料 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html

年次有給休暇の時季

年次有給休暇は、労働者が請求する日に与えなければならないと労働基準法で定められています。使用者は、労働者が請求した日に年次有給休暇を与えることが事業に支障がある場合にのみ、他の日に年次有給休暇を与えることができますが、年次有給休暇を与えないことはできません。

出勤率の算定方法(出勤率が8割未満の年は有給を与えなくて良い)

年次有給休暇は「雇い入れの日から6か月継続して勤務」し「その期間の全労働日の8割以上出勤した」労働者に対して付与されるので、逆に言うと出勤率が8割未満の場合は有給休暇を与える必要が無い事になりますので、使用者は出勤率の算定を正しく理解し、労働者に不利にならないようにする必要があります。

出勤率=出勤した日数÷全労働日

出勤した日とは通常通り出勤して、勤務した日以外に遅刻早退した日も含みます。
全労働日とは、暦日数から所定休日を除いた日です。

また、以下の場合は、出勤したものと見なします。
① 業務上の負傷・疾病による療養のため休業した期間
② 産前産後の女性が産前産後の休業を取った期間
③ 育児休業または介護休業をした期間
④ 年次有給休暇を取得した日

以下の場合は全労働日から除外する必要があります。
① 使用者の責に帰すべき事由による休業の日
②正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

有給休暇の取得率

2018年年末、エクスペディアが【世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018】発表しました。それによりますと日本の有給休暇取得率は50%。私の実感では、「結構多いな」という感じです。事実我が国の有休取得率の推移を見てみると昭和60年には51.6%その後バブル期には一時55%を超えるに至りましたが、バブル崩壊後の不況期になると50%を割り込むようになりました。その後景気回復期においても50%を超えることはありませんでした。ふたたび50%を超えたのが2018年となっています。(資料出所厚生労働省「就労条件総合調査」、「賃金労働時間制度等総合調査」(1999年まで) )

しかし、国際比較でみてみると最下位という結果でした。しかもワースト2のオーストラリア(取得率70%)と比較しても20%も劣っているのです。付与日数はまあまあ多いのに取得日数は10日間でこちらも、ワースト1位。取得出来ない利湯は職場環境にあるとの指摘が多く、事実労働者を対象にした調査でも「病気の時のために取っておく」、「他の人に迷惑がかかる」、「仕事が多すぎて休めない」、「休んだときの仕事をやってくれる人がいない」等です。また、業種や企業規模により取得率にはかなり差があります。

周囲に迷惑が掛かることを懸念して有給休暇を取れない労働者が多いということは、ほかのメンバーに負荷がかからない仕組みを作ることが必要かつ喫緊な課題ということをしめしています。一つの仕事を一人の人しかできないのでは無く複数人ができるようにし、交代制で担当できる様にしましょう。また、そもそも休暇を取れないほど業務が多いのであれば、その業務は本当に必要なのか見直すといったことも必要です。

割増賃金の計算方法

割増賃金,残業代

労働時間と割増賃金の意義

労働時間には2つの種類があります。就業規則や労働契約書に記載されている労働時間を所定労働時間といいます。一方、労基法32条では労働時間の上限を1日に付き8時間1週間に付き40時間に制限しています。これを法定労働時間と言います。使用者は、この法定労働時間内で自由に(所定)労働時間を定めることができます。法定労働時間を超える労働時間を就業規則などに定めていても無効とされ、法定労働時間が有効になります。(所定労働時間と法定労働時間)参照

横道にそれますが、休日についても割増賃金は発生するのですこし、休日についてお話ししましょう。休日にも法定休日とそうで無い休日があります。労基法35条に週1回の休日を与えることが規定されています。この休日を法定休日と呼びます。一方、そうでない休日とは、週休2日制における法定休日以外の休日を言います。具体的に言うと土日休みの会社における日曜日を法定休日と規定した場合、土曜日を法定休日以外の休日(法定外休日)と言います。

そして、同37条ではそれを超える労働に関しては割増賃金の支払いを義務づけています。この37条の規定は長時間労働を抑制し労働者の健康を守り家庭生活や社会生活をするためのものです。割増賃金の支払いは使用者に長時間労働の削減に取り組むように仕向けることを目的としています。

割増賃金の計算方法

割増賃金は以下の式により計算出来ます。

割増賃金額=時給×時間数×割増賃金率

時間数は日々の集計、割増率は法律によって定められています。では、時給はどのようにして算出するのでしょうか?時給というのですから、労働1時間あたりの賃金ということになりますが、賃金体系によって計算方法が異なります。

月給の場合

通常は月によって労働日数が異なるので、所定労働時間が異なり計算が煩雑になります。そこで、大体の事業所では1年間を平均した「1カ月間の平均所定労働時間」を用います。
給与の額は、1ヶ月の所定労働日数を勤務した場合に支給される給与・手当の合計です。

ここで、一般に基本給(職能給、職務給、年齢給など)、皆勤手当、食事手当、資格手当、運転手当、役職手当などは含まれますが、
次のものは除外されます。家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われる給与、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる給与
(手当の名称にかかわらず、支給内容がどうかで判断します。支給額が均一である場合賃金とされる場合が多いです。自己判断せず、行政にご確認ください。)
参照「割増賃金の計算に含まれない賃金がある」

割増賃金単価を計算

1年間の所定労働日数を求める
1年間の所定労働日数は、所定休日の日数の合計を1年(365日、閏年は366日)の日数から引いて算出します。
所定休日とは、会社が決めた休日であって、必ずしも土日祝祭日とは限りません。
月平均所定労働時間を求める
1ヶ月平均の所定労働時間数=1日の所定労働時間×(上で求めた)1年間の所定労働日数÷12(1年間の月数)
時給を求める
時給=給与・手当の合計額÷1カ月平均の所定労働時間数
上で求めた時給に超過した時間数と労基法に定められた割増率を掛ければ割増賃金額が求められます。
割増賃金額=時給×時間数×割増賃金率

 

割増賃金率

労基法に定められている割増賃金率は

  • 時間外労働・・・・・25%以上(1ヶ月60時間を超えるときは50%以上(*1))
  • 休日労働・・・・・・35%以上
  • 深夜労働・・・・・・25%以上

*1中小企業については当分の間25%以上

おわかりのように「以上」なのでこれ以上支給しても良いのです。なかなか余計に出すところはありませんが。時間外労働が休日に行われた場合はそれぞれの割増率を加算して60%以上、深夜時間帯(午後10時から午前5時)の時間帯に行われた場合は50%以上の支払いになります。

出典「割増賃金の計算に含まれない賃金がある」

割増率が当分の間、変わらない中小企業の条件

小売業 資本金5000万円以下、または、常時使用する労働者50人以下
サービス業 資本金5000万円以下、または、常時使用する労働者100人以下
卸売業 資本金1億円以下、または、常時使用する労働者100人以下
その他の事業 資本金3億円以下、または、常時使用する労働者300人以下

計算例

算出条件

基本給  235,000円
皆勤手当   8,000円
家族手当  20,000円
通勤手当  15,000円

年間の所定休日 122日(労働カレンダーによる)
1日の所定労働時間8時間(就業規則による)
時間外賃金の割増率25%(就業規則による)

計算例

1ヶ月平均の所定労働時間数
=8時間×(365日−122日)÷12ヶ月
=162.0時間/月

時間数は、小数点以下1桁あるいは2桁までで良いと思います。実際は、就業規則・賃金規程の規定により確認してください。

1ヶ月の給与・手当の合計額(算定基礎額)
基本給:243,000円

通勤手当と家族手当は、算定基礎額に含めません。就業規則(賃金規定)で確認します。手当によっては算定に含めるものがあります。

1時間当たりの単価
243,000円/162.0時間=1500.0円

1時間当たりの時間外手当(通常の残業代の単価)
1500.0円×(100%+25%)=1875=1875円(1円未満4捨5入(原則)、規定により切り上げ可)

月平均所定労働時間を使えば、ここまでは1年間同じですから一度算出しておけば1年間使えます。

ここで計算した残業代単価に時間数を掛ければ、その月の残業代が出ます。
例えば、残業時間が25時間の場合は、次のような計算になります。---したはここから

  • 残業代単価1875円の場合 1875円×25時間=46,875円

 

時間給・日給の場合

時間給・日給の場合は、月給の場合より簡単です。

時間給の場合、時間単価=時間給です。

日給の場合は、時間単価は、日給の額を所定労働時間数で除して算出します。
日給が8000円、所定労働時間数が8時間であれば、時間単価は1000円です。

時間給の場合、時間給だからといって、1日8時間を越えて働いても同じ時給ではありません。割増賃金が発生します。
時給が1000円ならば、8時間を超えた場合の残業代は1000円×(100%+25%)=1250円/時です。
ここで注意が必要です。一日の労働時間8時間未満のパートさんの場合8時間を超えなければ残業ではありません。通常の賃金となります。

深夜になった場合は、割増率が更に+25%以上加算されます。

 休日労働の場合

休日に働いた場合は、労働すべてが時間外労働となります。

法定休日に残業した場合、割増率は35%(以上)。法定休日以外の休日労働の場合は割増率は25%(以上)となります。深夜業となる場合深夜割り増しの25%を加えたものになります。

 

法定の時間内の残業の場合

所定労働時間は、法定労働時間(一日に付き8時間、1週間に付き40時間)の範囲内で就業規則などに定められています。この所定労働時間が、法定労働時間である、1日8時間、1週間40時間より短く規定されている場合、所定労働時間分は超えているが、法定労働時間は超えていない労働が起こりえます。例えば、一日に6時間、週に30時間(6時間×5日)働く契約の労働者が2時間残業したような場合です。このような法定労働時間を超えてはいないが所定労働時間を超えた労働を「法定内残業」といいます。この場合、割増率は0%です。割り増しはありません。但し、雇用契約や就業規則に規定されている場合、その規定に従って割増賃金を計算します。
法定内残業であっても、深夜労働である場合には、25%の割増率を用いて、割増賃金を計算します。

法内残業の実際例

始業時間が9時の会社で12時から13時が休憩の場合所定労働時間が17時終了(1日の労働時間が7時間)の場合20時まで残業すると17時から18時は一日8時間の法定労働時間内なので「法定内残業」となり割増率は0です。18時から20時が残業時間となり25%増しの賃金を支払わなくてはなりません。

さて、この会社に勤めるAさんが病院によってから出社すると言うことで出社時間が11時になりました。この場合の残業時間はどうなるでしょうか「法定内」と「法定外」に分けて答えなさい。という問いにあなたはどう答えますか?

会社の規定の労働時間で計算すると上に書いているとおり2時間分の割増賃金を支払い2時間分(9時から11時)の遅刻控除をするのでしょうか?正解は労働開始から一日の労働時間をカウントするので11時から8時間は法定労働時間内となります。従って「法定内」1時間、「法定外」0時間となります。

 

変形労働時間制やフレックスタイム制の場合

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