労働時間と割増賃金の意義
労働時間には2つの種類があります。就業規則や労働契約書に記載されている労働時間を所定労働時間といいます。一方、労基法32条では労働時間の上限を1日に付き8時間1週間に付き40時間に制限しています。これを法定労働時間と言います。使用者は、この法定労働時間内で自由に(所定)労働時間を定めることができます。法定労働時間を超える労働時間を就業規則などに定めていても無効とされ、法定労働時間が有効になります。(所定労働時間と法定労働時間)参照
横道にそれますが、休日についても割増賃金は発生するのですこし、休日についてお話ししましょう。休日にも法定休日とそうで無い休日があります。労基法35条に週1回の休日を与えることが規定されています。この休日を法定休日と呼びます。一方、そうでない休日とは、週休2日制における法定休日以外の休日を言います。具体的に言うと土日休みの会社における日曜日を法定休日と規定した場合、土曜日を法定休日以外の休日(法定外休日)と言います。
そして、同37条ではそれを超える労働に関しては割増賃金の支払いを義務づけています。この37条の規定は長時間労働を抑制し労働者の健康を守り家庭生活や社会生活をするためのものです。割増賃金の支払いは使用者に長時間労働の削減に取り組むように仕向けることを目的としています。
割増賃金の計算方法
割増賃金は以下の式により計算出来ます。
割増賃金額=時給×時間数×割増賃金率
時間数は日々の集計、割増率は法律によって定められています。では、時給はどのようにして算出するのでしょうか?時給というのですから、労働1時間あたりの賃金ということになりますが、賃金体系によって計算方法が異なります。
月給の場合
通常は月によって労働日数が異なるので、所定労働時間が異なり計算が煩雑になります。そこで、大体の事業所では1年間を平均した「1カ月間の平均所定労働時間」を用います。
給与の額は、1ヶ月の所定労働日数を勤務した場合に支給される給与・手当の合計です。
ここで、一般に基本給(職能給、職務給、年齢給など)、皆勤手当、食事手当、資格手当、運転手当、役職手当などは含まれますが、
次のものは除外されます。家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われる給与、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる給与
(手当の名称にかかわらず、支給内容がどうかで判断します。支給額が均一である場合賃金とされる場合が多いです。自己判断せず、行政にご確認ください。)
参照「割増賃金の計算に含まれない賃金がある」
割増賃金単価を計算
1年間の所定労働日数を求める |
1年間の所定労働日数は、所定休日の日数の合計を1年(365日、閏年は366日)の日数から引いて算出します。
所定休日とは、会社が決めた休日であって、必ずしも土日祝祭日とは限りません。 |
月平均所定労働時間を求める |
1ヶ月平均の所定労働時間数=1日の所定労働時間×(上で求めた)1年間の所定労働日数÷12(1年間の月数) |
時給を求める |
時給=給与・手当の合計額÷1カ月平均の所定労働時間数 |
上で求めた時給に超過した時間数と労基法に定められた割増率を掛ければ割増賃金額が求められます。 |
割増賃金額=時給×時間数×割増賃金率 |
割増賃金率
労基法に定められている割増賃金率は
- 時間外労働・・・・・25%以上(1ヶ月60時間を超えるときは50%以上(*1))
- 休日労働・・・・・・35%以上
- 深夜労働・・・・・・25%以上
*1中小企業については当分の間25%以上
おわかりのように「以上」なのでこれ以上支給しても良いのです。なかなか余計に出すところはありませんが。時間外労働が休日に行われた場合はそれぞれの割増率を加算して60%以上、深夜時間帯(午後10時から午前5時)の時間帯に行われた場合は50%以上の支払いになります。
出典「割増賃金の計算に含まれない賃金がある」
割増率が当分の間、変わらない中小企業の条件
小売業 |
資本金5000万円以下、または、常時使用する労働者50人以下 |
サービス業 |
資本金5000万円以下、または、常時使用する労働者100人以下 |
卸売業 |
資本金1億円以下、または、常時使用する労働者100人以下 |
その他の事業 |
資本金3億円以下、または、常時使用する労働者300人以下 |
計算例
算出条件
基本給 235,000円
皆勤手当 8,000円
家族手当 20,000円
通勤手当 15,000円
年間の所定休日 122日(労働カレンダーによる)
1日の所定労働時間8時間(就業規則による)
時間外賃金の割増率25%(就業規則による)
計算例
1ヶ月平均の所定労働時間数
=8時間×(365日−122日)÷12ヶ月
=162.0時間/月
時間数は、小数点以下1桁あるいは2桁までで良いと思います。実際は、就業規則・賃金規程の規定により確認してください。
1ヶ月の給与・手当の合計額(算定基礎額)
基本給:243,000円
通勤手当と家族手当は、算定基礎額に含めません。就業規則(賃金規定)で確認します。手当によっては算定に含めるものがあります。
1時間当たりの単価
243,000円/162.0時間=1500.0円
1時間当たりの時間外手当(通常の残業代の単価)
1500.0円×(100%+25%)=1875=1875円(1円未満4捨5入(原則)、規定により切り上げ可)
月平均所定労働時間を使えば、ここまでは1年間同じですから一度算出しておけば1年間使えます。
ここで計算した残業代単価に時間数を掛ければ、その月の残業代が出ます。
例えば、残業時間が25時間の場合は、次のような計算になります。---したはここから
- 残業代単価1875円の場合 1875円×25時間=46,875円
時間給・日給の場合
時間給・日給の場合は、月給の場合より簡単です。
時間給の場合、時間単価=時間給です。
日給の場合は、時間単価は、日給の額を所定労働時間数で除して算出します。
日給が8000円、所定労働時間数が8時間であれば、時間単価は1000円です。
時間給の場合、時間給だからといって、1日8時間を越えて働いても同じ時給ではありません。割増賃金が発生します。
時給が1000円ならば、8時間を超えた場合の残業代は1000円×(100%+25%)=1250円/時です。
ここで注意が必要です。一日の労働時間8時間未満のパートさんの場合8時間を超えなければ残業ではありません。通常の賃金となります。
深夜になった場合は、割増率が更に+25%以上加算されます。
休日労働の場合
休日に働いた場合は、労働すべてが時間外労働となります。
法定休日に残業した場合、割増率は35%(以上)。法定休日以外の休日労働の場合は割増率は25%(以上)となります。深夜業となる場合深夜割り増しの25%を加えたものになります。
法定の時間内の残業の場合
所定労働時間は、法定労働時間(一日に付き8時間、1週間に付き40時間)の範囲内で就業規則などに定められています。この所定労働時間が、法定労働時間である、1日8時間、1週間40時間より短く規定されている場合、所定労働時間分は超えているが、法定労働時間は超えていない労働が起こりえます。例えば、一日に6時間、週に30時間(6時間×5日)働く契約の労働者が2時間残業したような場合です。このような法定労働時間を超えてはいないが所定労働時間を超えた労働を「法定内残業」といいます。この場合、割増率は0%です。割り増しはありません。但し、雇用契約や就業規則に規定されている場合、その規定に従って割増賃金を計算します。
法定内残業であっても、深夜労働である場合には、25%の割増率を用いて、割増賃金を計算します。
法内残業の実際例
始業時間が9時の会社で12時から13時が休憩の場合所定労働時間が17時終了(1日の労働時間が7時間)の場合20時まで残業すると17時から18時は一日8時間の法定労働時間内なので「法定内残業」となり割増率は0です。18時から20時が残業時間となり25%増しの賃金を支払わなくてはなりません。
さて、この会社に勤めるAさんが病院によってから出社すると言うことで出社時間が11時になりました。この場合の残業時間はどうなるでしょうか「法定内」と「法定外」に分けて答えなさい。という問いにあなたはどう答えますか?
会社の規定の労働時間で計算すると上に書いているとおり2時間分の割増賃金を支払い2時間分(9時から11時)の遅刻控除をするのでしょうか?正解は労働開始から一日の労働時間をカウントするので11時から8時間は法定労働時間内となります。従って「法定内」1時間、「法定外」0時間となります。
変形労働時間制やフレックスタイム制の場合
変形労働時間制やフレックスタイム制の場合の割増賃金の計算はこちら