労働基準

管理監督者の範囲について最新判決を踏まえて(令和6年8月)

はじめに

大阪地裁令和6年3月14日の判決は、管理監督者の範囲に関する新たな解釈を示唆するものであり、事業主にとって大きな関心を集めています。本判決を踏まえ、管理監督者の範囲について、事業主が理解すべき点をわかりやすく解説します。

管理監督者とは?

労働基準法では、管理監督者に対しては、労働時間、休憩、休日の制限が適用されません。つまり、残業代などを支払う必要がないとされています。しかし、全ての管理職が管理監督者となるわけではありません。

管理監督者かどうかは、役職名ではなく、実際の仕事内容、責任と権限、勤務状況など、総合的に判断されます。

大阪地裁令和6年3月14日判決のポイント

この判決では、従来の判断基準に加えて、以下の点が特に重視されたと考えられます。

  • 実質的な権限の有無: 単に役職名が付いているだけでなく、実際に人事評価や予算編成など、経営に深く関与できる権限を持っているか。
  • 裁量労働の程度: 労働時間や勤務場所などを、ある程度自由に決められるか。
  • 報酬水準: 一般の従業員と比較して、十分に高い報酬が支払われているか。

事業主が注意すべき点

  • 役職名だけでは判断できない: 課長や係長など、役職名がついていても、実際の仕事内容によっては、管理監督者とは認められない場合があります。
  • 個々のケースに応じた判断: 従業員一人ひとりの職務内容や状況を具体的に検討し、管理監督者に該当するか否かを判断する必要があります。
  • 法改正の可能性: 労働法は常に変化しており、この判決の内容が将来もそのまま適用されるとは限りません。最新の法改正や判例に注意を払う必要があります。

管理監督者に関するリスクと対策

  • 残業代請求: 管理監督者と認められなかった場合、従業員から残業代を請求される可能性があります。
  • 労働基準監督署の指導: 労働基準監督署から是正を求められる可能性があります。
  • 従業員のモチベーション低下: 管理監督者と認められない場合、従業員のモチベーションが低下し、離職率が高まる可能性があります。

これらのリスクを回避するためには、以下の対策が考えられます。

  • 就業規則の整備: 管理監督者の範囲を明確に定めた就業規則を作成し、従業員に周知徹底する。
  • 定期的な見直し: 従業員の職務内容や組織体制が変化した場合には、定期的に管理監督者の範囲を見直す。
  • 労働弁護士への相談: 複雑なケースについては、労働弁護士に相談し、適切なアドバイスを受ける。

まとめ

管理監督者の範囲は、労働問題の中でも非常に複雑な問題であり、事業主にとって大きな負担となる可能性があります。この判決を機に、自社の状況を改めて見直し、適切な対応を取る必要があります。

より詳しい情報を得るためには、弁護士や社会保険労務士など、専門家にご相談ください。

ご不明な点はお気軽にご質問ください。

手待ち時間は労働時間

手待ち時間とは何か

手待ち時間とは、作業と作業の合間の時間や商店などでお客様が来るのを待っている時間など、一見休憩しているように見えるが、何かあったときは対応しなければいけない時間のことで、休憩時間では無く労働時間と見なされるのが一般的です。

1.客待ち時間

休憩時間と定められていても、労働者の自由に時間を使えるわけでは無く「お客様が来店した場合には応対しなければならない」場合は休憩時間ではなく、手待ち時間とされます。実際には誰も来店しなかったとしても労働時間となります。

2.仮眠時間

夜勤などで就業時間中に仮眠時間が含まれている場合、仮眠時間中の行動に関して何の指示も無く、休憩時間と同様に労働者が自由に行動できる場合は、休憩時間となります。
しかし、仮眠時間中であっても「何かあった場合には対応しなければならない」場合や休憩室など一定の場所にいることを強制されている場合など、仮眠時間が労働時間となる場合があります。

「仮眠時間に労働者が労働から離れることを保障されている限り労働時間では無いと判断できる 」との一般論を示し、ビル管理会社の従業員が勤務の途中に与えられる夜間の仮眠時間も、仮眠場所が決まっていることや、仮眠中も突発事態への対応をしなければならないこと理由に労働時間に当たるとする判例があります。(大星ビル管理事件 最高裁 平14.2.28)

裁判例や行政解釈において労働時間として認められた手待時間としては次に挙げるものが代表的なものです。

タクシー運転手の客待ち時間

タクシー運転手の客待ち時間も、たとえそれが30分を超えるものであっても使用者の指揮命令に従わなければならず、使用者の指示があればいつでも労働の提供ができる状態にあったのであるから労働時間であるとされています。(大分地判平成23年11月30日・中央タクシー割増賃金請求事件判決)。

貨物積込業務における貨物の到着待ち等の時間

昭和33年10月11日基発6286号は「貨物の積込係がトラックの到着を待機している時間は、出勤してその場所にいなければならないので、労働時間である」として、又、トラック運転手がトラックに貨物が積み込まれるのを待機している時間も「貨物の積込を行う以外の時間には全く労働しないでも、同じ理由により労働時間と解すべきである。」としています。

3.電話番の時間

昼休み中の電話番や来客対応について、厚生労働省は「労働時間に含まれる」と示しています。机や電話のそばから離れることができないため実際には退屈しのぎに新聞・雑誌を読んでいたとしても労働時間となります。

昼休みに、交替で従業員が自席で昼食を取りつつ、電話番と来客応対をしている場合、実際には来客もなく、電話もかかってこなかったとしても「手待時間」として労働時間となります。(昭和23年4月7日 基収1196号、昭和63年3月14日 基発150号、平成11年3月31日 基発168号)

4.物品の運搬・運送

出張の目的が物品の運搬であるなど、使用者の指揮命令下にある場合は労働時間に含むものとされます。

運転手が2名で交互に運転にあたる場合に、運転しない者が助手席で休息又は仮眠している場合は手待時間ですから、労働時間とされます。

手待ち時間と労働時間の境目

「手待ち時間」と「休憩時間」の判断がどこで分かれるかと言えば、もうおわかりかと思いますが、使用者の指揮命令下から完全に離れ、労働者が自由に利用できる時間であれば休憩時間そうで無ければ手待ち時間としてたとえ休憩しているように見えても労働時間とされ賃金を支払う必要があります。

 

その他の労働時間になるものをみる

作業準備時間は労働時間です。

作業準備時間は労働時間です。

作業に付随する時間は直接の作業時間で無くても労働時間です。

事業場内の整理整頓、機械のメンテナンス等、本来の作業のための準備作業、作業終了後の清掃、開店準備や閉店後の片付け等の時間は、特に使用者の指示命令がなくても、労働時間とされるべきものです。

しかし、これらの時間でも裁判所の判例では、労働時間とするものと労働時間では無いとするものが両方あります。たとえば、以下の2つの事件が有名どころです。

日野自動車事件 最高裁 昭和59.10.18

「入門後職場までの歩行や着替え履き替えは労働の準備行為であって労働そのものでは無いから労働時間に含まれないことは明らか」とするもの。

三菱重工事件 最高裁 平成12.3.9

「作業服・安全保護具等の着装時間及び準備体操、職場への移動時間等が労基法上の労働時間」とするもの。

なお本件では、作業服等の装着については、安全心得や作業基準の内規により、指示され、作業開始前にすませることが義務づけられていた。

日野自動車事件では労働時間では無いとされましたが、三菱重工事件では労働時間であるとされました。この2つの違いはとどのつまり、就業規則に規定されていたのか?その行為が必要不可欠なものであったのか?、そして、使用者の指示があったのかにより判断されています。日野自動車事件では「労務提供の準備行為の時間が労働時間に当たるかどうかは,就業規則の定めがあればその定めに従い,なければ職場慣行によって決すべき」と述べられています。なお、余談ですが、三菱重工事件では入浴時間はその必然性が無いとして、労働時間では無いとされています。おもしろいですね。両事件の詳細を知りたい方は検索すれば容易に出てくると思います。

労働時間に当たるかどうか決める3要素

1)法令、就業規則等に決められているか?

2)業務の遂行上必要不可欠なものかどうか?

3)使用者の指示があったかどうか?

 

 

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有給休暇を5日消化させるのは事業主の義務になりました。

働き方改革関連法により、2019年4月からすべての企業において、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、使用者は時季を指定して年5日間の年次有給休暇の取得させることが義務化されました。今までは年次有給休暇を取るか取らないかは労働者に任せている企業が多く、周りに気兼ねして有給を取りたくても取れない労働者も多くいました。今回の改正では、年次有給休暇を「必ず取らなくてはならない」ものとしています。結果、制度の趣旨に沿ったものとなることが期待されています。

有給休暇とは

有給休暇とは、労働者が給与を得たままで仕事を休むことができる法律上の制度です。これは、「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨」の制度と説明されています(平成21年5月29日基発0529001号)。

年次有給休暇の発生用件は、以下の2項目になります。

  1. 雇用された日から6カ月継続して雇われている。
  2. 全労働日の8割以上を出勤している

これらを満たしている場合、勤続年数に応じて有給休暇が付与されます。また、対象者は正規雇用だけではなく、非正規雇用(パート・アルバイト・派遣など)や、労働時間規制が除外される「管理監督者」「高度プロフェッショナル制度適用者」も含まれます。ただし、パートタイムで働いているなど、所定労働日数が少ない場合は、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。

(※)高度プロフェッショナル制度とは、対象業務や年収などの一定要件をクリアすれば、残業代の支払いが不要となる制度のこと。

有給休暇の付与日数

通常の労働者の付与日数

有給休暇は、6ヶ月間勤務しており、かつ、8割以上出勤した労働者に10日与えられます。さらに、1年6カ月間勤務した場合、1日増えて11日の休暇、2年6カ月で12日、3年6カ月で2日増えて14日、4年6カ月で16日、5年6カ月で18日、6年6カ月以上で20日と増えていきます。

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数

週の所定労働日数が4日以下・週30時間未満のパートタイム労働者または、年216日未満のパートタイム労働者(アルバイト、嘱託なども含む)の有給休暇の日数は上記より少ない日数が別に定められています。このことを、「比例付与」と言います。
<該当者>
1.週の所定労働時間が30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下
2.週の所定労働時間が30時間未満かつ年間の所定労働日数が216日以下(週の日数把握が難しい場合に適用)

有給休暇の付与日数について詳しく知りたい方はこちらをクリック

5日以上の有給休暇取得義務(今改正で新規制定されました)

平成31年(2019年)4月1日から、年10日以上の有給休暇を得ている労働者に対して(大企業・中小企業問わず)会社は、最低5日の有給休暇を取得させることが労働基準法上の義務となりました。今までは、労働者が自ら申し出る事により有給休暇を取得してきましたが、改正後は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者を対象に、使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に取得時季を指定して5日間の年次有給休暇を取得させなければいけないことになりました。時季指定については、労働者の希望を聞いて、可能な限り労働者の希望に沿った取得時季になるように努めなければならないとされています。ただし、労働者が自ら5日以上取得できる場合は、会社が時季指定しなくても良いとされています。

「年次有給休暇管理簿」の作成と3年間の保存が義務化された

今回の改正に伴い、使用者は「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存しなければいけないことになりました。これは、年次有給休暇の年5日間の消化が義務になり、使用者は各労働者の有給取得状況を把握・管理し、5日未満の場合は取得を促す必要が出てきたためです。

年次有給休暇管理簿には、労働者ごとの年次有給休暇の時季や日数の基準日を記載し、年次有給休暇の期間中1年と、満了後3年間の保存をします。労務管理ソフトなどをお使いの場合は年次有給休暇管理簿は、労働者名簿又は賃金台帳と合わせて調整できるようになっている場合も多いかと思います。

違反した場合は罰則も

これまでは、有給を使うかどうかは労働者に任され、休暇を取らなくても構わなかったのですが、2019年4月以降は、年最低5日は労働者に有給を取らせないと労働基準法違反となり、違反の場合には、使用者に6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が発生します(労働基準法第119条)。なんらかの形で法律違反をしていることが発覚した場合、即罰則が与えられるのではなく、労働基準監督署から何度も指導が入り、改善が見られない場合に科される事になるでしょう。

残業(時間外労働)規制

残業規制

時間外労働の上限規制のポイント(2019年4月から)

働き方改革による労働基準法改正で、労働時間に関する規制が強化されます。主なものは次のようなものです。
1.残業時間の上限規制により、月45時間、年360時間までの残業が基本となる。(現状と同じ)
2.特別条項つき36協定を用いることで、1年で6回までなら、1ヶ月の残業時間を100時間まで。1年の残業時間上限も720時間まで。(厳しくなります)
3.2019年4月から(上記1.2の)残業時間の上限規制が適用される。ただし中小企業は1年後の2020年からです。
4.タクシー、トラック運転手や医師など一部の業種に残業時間の上限規制は2024年から適用されます。

時間外労働の上限規制とは

今まで時間外労働の上限規制はどうなっていたのでしょう?本来、法定労働時間(週40時間1日8時間)を超えた労働は違法ですが、36(さぶろく)協定を締結すれば残業(時間外労働)をさせても良いということになっています。但し、36協定を届け出たからといって、無制限に残業をさせても良いというわけではありません。しかし、一時的に残業が増えることはどこの会社にもあり得ます。そのような時は36協定の特別条項を利用し残業時間を一時的に増やすことができました。

特別条項付きの36協定を締結することで、1年のうち6ヶ月に限り残業時間の上限規制が撤廃されます。1ヶ月×6回の合計6ヶ月間のみ、36協定で定められている時間を超えて無制限に残業させることができました。

この状況を改善するために働き方改革により、36協定による残業時間の上限規制をより強固にすることになりました。

働き方改革関連法施行前の限度基準告示による上限は罰則はあるものの強制力はなく、特別条項を設けることで実質は上限なく従業員に時間外労働を行わせることが可能でしたが、今回の改正によって労働時間の上限が法律によって定められ、臨時的な特別な事情がある場合でも上限を上回ってはならないとされています。守れなかった場合は罰則もあります。

年間での時間外労働の上限規制について

働き方改革による労働基準法の改正により、残業時間の上限規制が厳しくなり、特別条項付き36協定を締結しても、残業時間に制限が設けられるようになりました。

今までは年6回限定で、1ヶ月間の残業時間を無制限にできましたが、法改正後は1ヶ月の残業時間の上限が100時間に定められました。特別条項を利用しても、月100時間以上残業させたら違法になるのです。

2019年4月以降の残業時間の上限

1.平時の残業時間上限は、1ヶ月で45時間、1年で360時間。(今までと同じ)
2.特別条項を利用した場合、1年で合計6ヶ月の間だけ、月の残業時間上限が100時間まで延長できる。(但し、休日労働の時間も残業時間に含める)
3.特別条項を利用した場合、1年720時間以内の残業が認められる。
4.特別条項があっても、残業時間には複数月平均80時間以内の制限が設けられる。(休日労働の時間も残業時間に含める)

前述の通り、今までは36協定の特別条項を締結することで、時間外労働の上限規制を超えて労働させることができました。しかもこの特別条項には時間外労働の上限に関して明確な法律の定めがなく、長時間労働を指摘されても「年720時間以内が望ましい」という行政指導を受けることがある程度のものでした。

改正後も、基本的に時間外労働は月45時間・年360時間に収めなければならないことは変わりません。また、特別条項を締結しての時間外労働は認められますが、年間720時間以内・月100時間未満・複数月平均80時間以内(休日労働も含む)・時間外労働45時間超えは年6カ月以内という条件をすべて満たさなくてはならなくなりました。これに違反した場合は、法律により罰金30万円or6カ月以下の懲役の罰則が科される可能性あるので注意が必要です。

複数月平均とは新しい概念なので解説します。

時間外労働時間は「複数月平均80時間以内」に

「複数月平均80時間以内」とは

例えば12月時点でこの基準に合致しているかを確認する場合、7~12月(6カ月平均)・8~12月(5カ月平均)・9~12月(4カ月平均)・10~12月(3カ月平均)・11~12月(2カ月平均)のいずれの場合でも平均の時間外労働が80時間を下回っている必要があります。

1つでも時間外労働時間が平均80時間を超えていると、12月の時間外労働は違法なものとなるため残業時間の管理が重要になります。

中小企業は2020年4月から適用されます

大企業では2019年4月1日から残業時間の上限規制が適用されますが、中小企業の場合は1年遅れて2020年4月1日からとなります。

規制を除外・猶予される事業や業務

中小企業への上限規制適用に猶予があるのとは別に、残業時間の上限規制に対する除外や猶予の措置がとられている事業が存在します。残業規制が遅れて適用される、または規制そのものが適用されないのは、以下の事業です。

土木、建設などの建設業・・・2024年4月1日

病院で働く医師・・・2024年4月1日

自動車を運転する業務(タクシー運転手など)・・・2024年4月1日

新技術や新商品などの研究開発業務・・・上限規制は適用されない

こちらに詳しく載ってます↓

働き方改革総合リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

その他の改正点

中小企業も時間外労働の割増賃金が50%へ引き上げられる(2023年4月より)

時間外労働が発生すると労働基準法の定めにより、割増賃金を支払う必要があります。割増賃金は2008年の労働基準法改正により、大企業では月60時間を超える場合の時間外労働の割増賃金が50%に引き上げられました。中小企業には猶予されていましたが、働き方関連法の改正により2023年4月より割増賃金の引き上げが中小企業にも適用されることになります。

罰則について

2019年4月以降、上限規制を超えた違法な時間外労働に対して罰則が科されるようになります。さらに、臨時的な特別な事情がある場合であっても上回ることのできない上限が設けられました。これにより、時間外労働の上限規制に違反した場合、半年以下の懲役か30万円以下の罰金が科されることになります。

違法労働となる例

36協定を締結していない場合、そもそも法定労働時間を超えての労働が違法になります。そのため、1日8時間もしくは週40時間を超えての労働自体が違法になります。

36協定を締結・特別条項を締結していない場合は、週15時間、1カ月45時間を超過しての時間外労働が違法になります。

36協定・特別条項のどちらも締結している場合は、下記のいずれかに該当する場合が違法になります。

年6回を超えて月45時間以上を超える時間外労働をさせること
月100時間以上の時間外労働をさせること
複数月の平均時間外労働時間が80時間を超えること
年720時間を超えて時間外労働をさせること

有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利

湯給を取得する権利を時季指定権、期日を変更させる権利を時季変更権といいます。

有給休暇を取得する権利と取得日を変更する権利

年休の時季指定権(有休を取る権利)

労働者が有給を取得するのは、どのような目的で取得しても自由であるとされており、どの労働日に取得するかについての決定権も、時季指定権として労働者に認められています。使用者はその指定された日に与えるようにしなければなりません。

年休の時季変更権(有給の取得日を変更してもらう権利)

労働基準法は、労働者に年次有給休暇を取得する日を指定する「時季指定権」を認めるとともに、会社には「事業の正常な運営を妨げる場合」には取得日(取得時季)を変更することができる「時季変更権」を認めています。
「事業の正常な運営を妨げる場合」かどうかは、その事業場を基準として、事業規模、内容、労働者の担当業務、作業の繁閑、代行者の配置の難易などを考慮して、客観的に判断されるべきとしています。たとえば、年末・年度末のような繁忙期や、風邪を引いて休んでいる人が多く人員配置の面で問題が生じる場合などが考えられます。実務上は、現場で支障が出ないように調整をするようにします。

時季変更権に関するトピック

退職日が間近なものの有給休暇申請に対する時季変更権の行使

退職予定日が20日後の労働者がその時点でいまだ20日の年休を有している場合その退職予定日を超えての時季変更はすることができません。年休は「労働の義務を免除する」ものであり労働の義務のない退職者に与えることはできないからです。

有給休暇の当日申請は「時季変更権」を行使できる

有給休暇は一般的に前もって申請するのが望ましいとされ、労働者が会社に対して有給休暇を取得したいと申し出る日(時季指定権を行使する日)については、法律上の定めはありませんが、会社が事業に支障が出るかどうか判断するだけの時間的余裕を持って申し出る事は当然である(「会社が時季変更権を行使するための時間的余裕をもってなされるべきことは事柄の性質上当然である」)とする裁判例があり、有給をその日に与えることが事業の運営に影響を与えるかどうか判断するために必要な「合理的な期間」であれば、有給休暇の申請期限を設けることも可能です。現実に就業規則には「有給休暇の申請は〇日前までに行わなければならない」と申請期限を定めている会社がほとんどでしょう。

一方、急病などの理由で有給休暇を当日申請されることも少なくありません。しかし、会社によっては当日に休まれると困るようなケースもあるでしょう。

この場合会社は、労働者からの申請を却下することは可能なのでしょうか?

就業規則で定められている申請期限が「合理的な期間」である限り、申請期限までに行われなかった有給休暇の申請については、それを認めなかったとしても違法ではありません。よって、親族に急な不幸があった場合などのように労働者側に正当な理由がある場合ならともかく、単に遊びに行くためなどの理由で就業規則上の定めに違反して有給を請求するのは労働者の権利の濫用といえるでしょう。

有給休暇の当日申請却下が「不当と判断されるケース」もある

ただし、あらかじめ定めた申請期限までに行われなかった申請が、必ず「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するわけではありません。

申請期限後の申請であっても、当該労働者の担当する作業内容、性質、繁閑の程度などを総合的に勘案した結果、代替要員の確保などの必要性がなく事業の正常な運営を妨げるとは言えない場合には有給休暇を取得させないことを不当と判断される可能性があります。

また、年次有給休暇の当日申請は、先に述べた通り法律上は事後申請の扱いとなりますが、労働者から個別に争われた場合(裁判を起こされた場合)には、実質的に事前(始業前)に行われている申請を、法律上事後申請となることを理由に拒否することは、不当と判断される可能性が否定できません。

結局のところ、当日に行われた有給休暇の申請であっても申請期限後の申請であることや当日申請であることを理由に一律にその取得を拒否することはできず、事案ごとに個別に取得の可否を判断する必要があります。

会社のルールとしては当日申請がやむを得ないことであることを確認するため医療機関のレシートや診断書などの提出を求められるようにしておき、有給休暇を認めないことの妥当性や必要性を、慎重に判断することを心掛けましょう。

時季指定権と時季変更権の関係

結局のところ労働者には有給休暇の時季指定権(日にちを指定して有給休暇を取得する権利)があります。もちろん、いちいちなぜ休むのか言う必要はありません。しかし、会社側には時季変更権があります。(事業の正常な運営を妨げる場合は他の日に休んでもらうようにしてもらう権利があります。)会社から時季変更権の行使をほのめかされれば、なぜ休むのか、その日に休む必要があるのかは伝えなくてはならないでしょう。同一の日に有休を取得したい人が複数人出れば当然、事業の運営に支障を来すことが考えられますから、そうした場合、会社は、当人同士で調整して欲しいと言うことになるでしょう。それができなければ、公平を期すために全員認めないという判断も十分考えられます。

有給休暇の買い取り

有給休暇の買い取りは違法です。

有給休暇の買い取り

会社に長く勤めていると結構有給休暇ってたまってしまいますよね。2年たつと時効で無くなってしまうので買い取ってくれれば労働者側としてもうれしい気もします。ですが、残念なことに有給休暇の買い上げは労働基準法で禁止されているんです。さて、なぜでしょう?どうせ無くなってしまうものを買い取ってもらえるなんて労働者にとってはいいことではないでしょうか。労働基準法は使用者の味方なのでしょうか?

日本の有給休暇の取得状況

エクスペディア・ジャパンによる有給休暇の国際比較調査の結果(2018年12月発表)によると日本は3年連続の最下位(取得率50%程度)日本では有給休暇を取得しきれずに余った状態でいることがわかります。有給休暇の時効は2年ですから、2年間取得できなければ消滅してしまいます。そう考えると有給休暇の買い取りは労働者にとってもメリットがあるように思えます。労働者が会社に有給休暇の買取りを請求した場合、会社は買い取る義務はあるのでしょうか。みていきましょう。

有給の買い上げは労働基準法39条違反となります

年次有給休暇の買い上げは法律で禁止されているのはなぜでしょう。そもそも、有給休暇とは本来、労働者が自分の好きな時季に休暇を取ることができるというものです。ただ、せっかく休暇がとれても、その間の給与が支払われないのであれば休暇を取ろうとする労働者もいなくなってしまいます。そのため、休暇をとっても会社は給与を支払いますよ、というのが年次有給休暇というわけです。

つまり、有給休暇とは休暇をとることが主目的であり、その日に給与を支払うのは付随するものなのです。この有給休暇の趣旨に照らしてみれば、有給を買い上げて労働者が休暇を取れなくなってしまうのは、本来の有給の趣旨では無いと言うことが簡単にわかるでしょう。

ここで、有給休暇に関する法律の規定を簡単に再度確認しておきましょう

年次有給休暇は「労働者の疲労回復、健康の維持・増進、その他労働者の福祉向上を図ること」を目的として法律に定められています。(労働基準法第39条)
そして、請求することのできる日から2年間の経過により、時効という制度により請求ができなくなってしまいます。(労働基準法115条)
一例として、労働基準法上では、正社員は勤務開始から全労働日の8割以上出勤していれば、勤務期間が6か月経過した時点で会社に対して年10日間の有給休暇請求権を取得します。しかし、権利を行使せずその日から2年間が経過した場合、その有給休暇請求権は時効により消滅してしまいます。

労働基準法より抜粋

この後の話のために便宜的に有給休暇を法定有給休暇と任意有給休暇に区別することにします。それぞれの定義は法定有給休暇とは一般に言われている有給休暇で労基法に定められているものを言います。任意有給休暇とは会社によって福利厚生の向上のために定められている有給休暇を言います。

 

法定有給休暇の付与

 

正社員

正社員は、全労働日のうち8割以上出勤することと、一定期間継続して勤務することにより有給休暇が与えられます。具体的には、6か月間の勤務により10日間の有給休暇が与えられ、その後1年継続して勤務する毎に新たに有給休暇が与えられ、しかも毎年その日数が増えるという仕組みになっています。

パート・アルバイト

パートなどの所定労働日数が少ない労働者に対しても、有給休暇は付与されます。この場合は、週の所定労働日数などに応じて有給休暇が付与されることになります。

会社は有給休暇買取る義務はありません

有給休暇とは、労働基準法に定められているとおり「労働者の福祉向上のため」に休暇を取ってもお給料は支払いますよ。といった制度であり、これを消化しなかった場合に会社が何らかの補償をするといったことはありません。会社に有給休暇を買取る義務はありません。

会社からの有給休暇買取りは原則違法だが、そうでない場合もある

会社からの働きかけによる買取りを認めると、労働者に休暇を取得させないために会社が有給休暇を買い取る事が可能になります。これでは法律の趣旨に反してしまいます。よって、会社からの有給休暇の買取りは原則として違法とされています。(禁止されています)

会社が有給休暇を買取っても違法ではない場合

買い取りをしても労基法違反にはならないといった意味で、積極的に買い取りをすべし、あるいは労働者には、買い取ってもらう権利があるというわけではありません。

法定有給休暇を超えた分について買い上げる場合

会社が法律で定められている分を超えて付与している場合。

仮に法定の有給休暇が年10日間付与される労働者に、年20日間の有給休暇を付与しているような会社の場合は10日間を会社独自に上乗せしていると考えられるので、その上乗せ分を買い取っても「労働者の福祉の向上」といった法の趣旨に反するものではありません。会社の自由裁量で買い取ったとしても法違反にはなりません。ただし、一緒に法定付与分まで買い取ってしまうことはできません。

有給休暇が時効消滅した場合

取得する権利が時効消滅した有給休暇は、もう取得することはできませんので買い取っても労働者の有休は減りません。従って、「労働者の福祉」に反するものとは考えられませんので、買い取っても労基法違反とはなりません。

退職時に未消化有給休暇がある場合

退職時に未消化有給休暇がある場合は、退職すると未消化有給休暇を消化することができなくなってしまうので、「有給休暇の時効消滅」と同様に考えて、特別に有給休暇を買い取ることも違法では無いとされています。

買取りに応じる企業は少ない

有給休暇の買取りは原則違法であるので、たとえ適法な範囲であっても違法ではないかという誤解を招きかねません。わざわざ誤解を招くことを避ける方が賢明です。

また、個別に対応することは不公平な状態を招きかねませんので、制度として規定する必要があると考えられますが、文章の書き方次第では違法として指摘を受けることも十分考えられます。わざわざこんな事をしようとする事業主は少ないでしょう。

さらに、世の中の流れとしては有休を消化するように制度化する方向に進んでいます。2019年4月1日からは有給休暇5日は最低取得するように義務づけされました。

以上勘案して、労働者の側としては有給買い取りをしてもらうことを狙うよりは取得できる環境を構築してもらうように働きかけましょう。事業主の方は人手不足の折、採用がよりやりやすくなると思われますので、そういった環境を整えアピールしていきましょう。

有給の計画的付与は有給の5日付与義務化に有効

有給休暇

有給休暇とは、簡単に言うと「賃金の保障された一定の日数の休暇」を付与することによって、 労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的とするものです。(有給休暇の詳しいことは「有給休暇とは」を参照)

年次有給休暇は一番多くなると1年で20日付与され、それが翌年まで繰り越すことが可能なので、理論上は最大40日まとめて休むことができます。そしてこれが現実的に起こるのが、退職時です。40日を一気に使うとほぼ2か月分、会社は労務の提供ない相手に対し賃金を支払わなければなりません。(退職時に請求された有休に対しては会社は時季変更権(業務上支障があるからといって他の日に有休を変更してもらう権利)を行使出来ません。)

これは企業にとって(特に中小企業)には大きな問題です。そこで、対策としておすすめなのが年次有給休暇の計画的付与ですが、なんとこの計画的付与は有給休暇5日取得の義務化にも有効なんです。

計画的付与で会社の指定する日に社員に有給を与える

計画的付与とは年次有給休暇の5日を超える部分の取得日を決めて取得させる制度のことです。(労働基準法39条第5項)「計画的付与」は労働者各人の付与日数のうち5日を超える部分について「労使協定」を締結することにより、計画的に与えることができます(この協定は、届け出不要です)。前年度と今年度合わせて40日分の有給がある労働者の場合、最大で35日分を計画的付与することができます。今年から始まった「働き方改革」による有給休暇5日取得の義務化ですが、労働者が自発的に有休を取れる環境にある会社はそれで良いのですが、なかなか有休の消化が進まない職場においては、この有給休暇の計画的付与は有効な方法です。
たとえば、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始といった大型連休の実現に年次有給休暇の計画的付与が利用できます。この制度は、年休の取得を促進し、年間労働時間を短縮することに大きく貢献しています。但し、現在会社休業日として、大型連休を実現している場合それを、有休に切り替えてしまうと「労働条件の不利益変更」と見なされる可能性が大きいので慎重に事を運ぶ必要があります。

「年5日有給休暇を与えることの義務化について絶対やってはいけないこと」参照(現在編集作業中に付きリンク切れ中)

計画的付与の方法

1)社員全員一斉に取得させるもの、2)グループごとに取得させるもの、3)個別に取得させるものの3方式があります。

社員全員一斉に取得させるもの

例えば、GWの飛び石連休などの労働日を計画年休とし、会社全体で休日とするものです。
この場合、対象者のうち年休日数のない(少ない)者には、有給休暇を特別に与えるか、労働基準法26条に定められた休業手当を支払うかのいずれかをする必要があります。

課、班別などのグループごとに取得させるもの

労働者をA班とB班に分け、A班は8月1日から5日まで、B班は8月6日から10日までというように、交代で年休を取得するように計画し会社自体は営業するというものです。
会社は営業しているので、「有休の足りない人は出勤」で対応出来ます。

個人別付与方式

社員に希望を聞き、会社としてのバランスを考え、有休を取得するものです。

有給休暇の計画的付与に関する手続き

計画的付与には就業規則に規定を置き、労使協定を締結することが必要です。

就業規則

就業規則に「付与した年次有給休暇のうち5日を超える部分については、従業員の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などのように定めることが必要です。

労使協定

従業員の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する必要があります。

労使協定の内容

(1) 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)
(2) 計画的付与の対象日数
(3) 年次有給休暇の計画的付与の設定

  1. 事業場全体の休業による一斉付与の場合には、具体的な年次有給休暇の付与日
  2. 班別の交替制付与の場合には、班別の具体的な年次有給休暇の付与日
  3. 個人別付与の場合には、年次有給休暇付与計画表を作成する時期、作成の仕方等(実際の有休取得はその表による)
(4) 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
(5) やむを得ない事情で、有休指定日を変更する場合の手続き

*時間単位年休は、個々の労働者に対して時間単位による年休の取得を義務付けるものではなく、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、労働者が請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるというものであることから、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。

計画的付与にあたって次のことを確認しましょう。

計画的付与の対象から除く者

計画的付与の対象期間中に育児休業や産前産後の休業などに入ることがわかっている者、また、定年などあらかじめ退職することがわかっている者については、労使協定で計画的付与の対象からはずしておきます。
なお、特別の事情により年次有給休暇の付与日があらかじめ定められることが適当でない労働者については、年次有給休暇の計画的付与の労使協定を結ぶ際、計画的付与の対象から除外することも含め、十分労使関係者が考慮するよう指導すること。
(昭和63.1.1 基発1号)

対象となる年次有給休暇の日数

年次有給休暇のうち、少なくとも5日は従業員が自由に取得出来ることが必要です。

計画的付与の効果的活用法

夏休み・年末年始の休暇に組み込み、大型連休としたり、暦の関係で休日が飛び石となっている場合に、連休とします。そうすることにより、旅行に行ったりする日付を少しずらしたりできます。高速道路の渋滞に巻き込まれるなどの余分なストレスを感じないでゆっくり休むこともできます。又、会社外での社員同士の交流も進みそうです。大きくライフスタイルの変化が生じてくれば、それこそ「働き方改革」の目的に近づいている証拠かもしれません。生活を楽しみつつ、しっかり労働して生産性を向上させるために有休を効果的に使いたいものです。又、業種によっては個々バラバラに有休を取得されると問題が生じる業種やなかなか有休を取得出来ない業種にはおすすめです。

有給休暇をしっかりと取得できる企業として社会から認知されることは、優秀な人材の確保や労働者の定着率の向上につながります。計画的付与を活用しながら、有給休暇の取得を促進しましょう。

有休の取得促進法

日本の有休取得率は50%でエクスペディアの調査対象国では最下位、ワースト2位のオーストラリアでも70%なので大差をつけられています。その理由の一つとして、「他の人に迷惑がかかる」というのがあげられていますが、日本人らしい気配りでしょうか、それでも、計画的付与なら会社としてお休みになるので気兼ねなく休めるのでは無いでしょうか。それ以外にも、従業員本人の誕生日や結婚記念日、子どもの誕生日などを休暇とする、いわゆる誕生日休暇がありますね。これも全員かならず回ってくるのでお互い様でしょう。その他の取得促進策としては、「業務の比較的閑散な時期に年次有給休暇を計画的に付与する」事により業務に支障なく有休取得率を上げることができます。働き方改革で有休取得促進、労働時間の短縮は国策化されている感じですので事業主としては、いろいろ手を尽くして取得率を向上させるように考えなくてはならないでしょう。

 

計画的付与が決定したあとで、使用者の都合で時季変更ができるのか?

労使協定による計画的付与において、指定した日に指定された労働者を就労させる必要が生じた場合であっても、計画的付与の場合には第39条第4項の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない。

(昭和63.3.14 基発150号)

すなわち、使用者は「請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる」という事情があった場合も、計画された年休の時季を別の時季に代えることができないとされています。計画的付与日を変更することが予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。

労働者都合による変更

労使協定の中に特段の定めがなければ、個別に対応することになります。

年休の日数が不足する労働者の場合

計画年休に充当する年休日数が不足する労働者には、「付与日数を増やす等の措置が必要」としています(昭和63.1.1 基発1号)

計画的付与が原因である有給休暇日数の足りない労働者の欠勤は、労基法26条に規定する「使用者の責に帰すべき事由」による休業として取り扱われます。
「足りない分の日数を別に付与したり、計画的付与の対象外にする等の措置」をとらずに当該労働者を休業させる場合には、労働契約や労働協約、就業規則等に基づき、賃金、手当等の支払を定めているときは、当該労働契約等に基づき当該手当等を支払う必要がありますが、そうでない場合であっても、少なくとも労働基準法第26条の規定による休業手当の支払(平均賃金の100分の60以上)が原則として必要です。

つまり、労働者は使用者に対して、休業手当(平均賃金の100分の60)を請求することができることになります。(昭和63.3.14 基発150号)

有給休暇時の賃金と平均賃金

有給休暇時の賃金(平均賃金)

有給休暇取得時の賃金

有給1日につき、平均賃金、もしくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う必要があります。

平均賃金とは

平均賃金は、労働基準法で定められている保障や減給の制限額を算定する際に、労働者の生活を保障するためのものですから労働者の通常の生活賃金を反映出来るように算定することを基本とし、

原則として算定事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額をその期間の総日数(暦日数)で除した金額をいいます。(労働基準法第12条)
すなわち、

平均賃金=過去3ヶ月間の賃金総額÷過去3ヶ月間の総日数(総暦日数)

労働基準法第12条より

平均賃金を算定する場合はどんなときか?

(1)労働者を解雇する場合の予告に代わる解雇予告手当-平均賃金の30日分以上(労基法第20条)
(2)使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当-1日につき平均賃金の6割以上(労基法第26条)
(3)年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金(労基法第39条)
(4)労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償等(労基法第76条から82条、労災保険法)
※休業補償給付など労災保険給付の額の基礎として用いられる給付基礎日額も原則として平均賃金に相当する額とされています。
(5)減給制裁の制限額-1回の額は平均賃金の半額まで、何回も制裁する際は支払賃金総額の1割まで(労基法第91条)
(6)じん肺管理区分により地方労働局長が作業転換の勧奨または指示を行う際の転換手当- 平均賃金 の30日分または60日分(じん肺法第22条)

労働基準法各条より

算定事由の発生した日とは

(1)解雇予告手当の場合は、労働者に解雇の通告をした日
(2)休業手当・年次有給休暇の賃金の場合は、休業日・年休日(2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日)
(3)災害補償の場合は、事故の起きた日または、診断によって疾病が確定した日
(4)減給の制裁の場合は、制裁の意思表示が相手方に到達した日

以前3か月間とは

算定事由の発生した日の前日から遡って3か月です。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から遡って3か月となります。賃金締切日に事由発生した場合は、その前の締切日から遡及します。
なお、次の期間がある場合は、その日数及び賃金額は先の期間および賃金総額から控除します。

(1)業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
(2)産前産後の休業した期間
(3)使用者の責任によって休業した期間
(4)育児・介護休業期間
(5)試みの使用期間(試用期間)

労基法12条より

賃金の総額とは

算定期間中に支払われる、賃金のすべてが含まれます。賃金の支払いが遅れているような場合は、未払い賃金も含めて計算されます。ベースアップの確定している場合も算入し、6か月通勤定期なども1か月ごとに支払われたものとして計算します。

日々雇い入れられる者(日雇労働者)

稼動状態にむらがあり、日によって勤務先を異にすることが多いので、一般常用労働者の場合と区別して以下のように算定します。

日雇労働者の平均賃金

(1)本人に同一事業場で1か月間に支払われた賃金総額÷その間の総労働日数×73/100
(2)(当該事業場で1か月間に働いた同種労働者がいる場合)
同種労働者の賃金総額÷その間の同種労働者の総労働日数×73/100
※1か月間に支払われた賃金総額とは算定事由発生日以前1か月間の賃金額

原則で算定できない場合、原則で算定すると著しく不適当な場合

上記の原則で算定できない特殊な事案については,平均賃金決定申請により都道府県労働局長が決定することとなりますので、所轄の労働基準監督署に相談してください。

所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金とは

所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金とは、所定労働時間が8時間の場合は「8時間労働した場合に支払われる賃金」のことです。 つまり、時給制の場合は所定労働時間に時給額をかけたものですし、日給月給の場合、1日欠勤した場合に欠勤控除される賃金額がそれに当たります。

平均賃金と所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の違い

両者の違いは、平均賃金には、時間外手当やその他諸手当を含んで算定をする一方、所定労働時間が支払われる通常の賃金では、それらを含まない、ということです。ただし、平均賃金の算定では、過去3ヶ月間の全出勤日数ではなく総歴日数で賃金総額を割るため、どちらの方が金額高くなるかは会社や労働者の働き方によって変わってきます。
どちらで支払うかは就業規則その他これに準ずるものに定めておく必要があります。 また、労使協定を結べば、健康保険法で定められている標準報酬日額(標準報酬月額を30で割ったもの)で、有給分の賃金を支払うこともできます。

パートタイマーの平均賃金

パートタイマーなど時給制の労働者の平均賃金はどのように算定するのが正しいでしょうか?平均賃金額は通常「平均賃金=過去3ヶ月間の賃金総額÷過去3ヶ月間の総日数(総暦日数)」となりますが、日給者・時給者・欠勤が多い者などは「3ヶ月間の賃金総額÷労働日数×60%」も計算し後者の方が高ければ後者が平均賃金となります。ただし、話を戻して、有休休暇時の賃金を考えますと就業規則に「所定労働時間勤務した場合の通常の賃金」または「平均賃金」のいずれかを支給するとの定めがあればそれに従うことになります。通常は「所定労働時間勤務した場合の通常の賃金」としておいた方が、計算が簡単です。ただし、パートタイマーの場合は一日の所定労働時間が異なる場合がありますので注意が必要です。たとえば一日の所定労働時間が5時間の場合が3日と4時間の場合が1日の場合(雇用保険加入を回避するとこうなる場合があります)答えは、「有休を取得した日に労働した場合に支払われる賃金を支払う」です。平均賃金で支払う定めをしておけば平均賃金を毎回計算して支払う必要があります。

有給休暇とは

有給休暇の取得を上手に進め企業経営に生かしましょう。

一昔前の経営者には「従業員に休みを与えるなんてもってのほか」とか「うちの会社に有給休暇なんて制度は無い」といった考え方をしている方がいらっしゃいました。まあ、ご自分は寸暇を惜しんで働き、成功してきたのですから、その成功体験に縛られてしまうのも理解できなくは無いですが、有給休暇は法律で認められた労働者の権利で有り、また、休暇をうまく活用することにより心身ともにリフレッシュして効率アップに繋がるといった効果も現在では認められています。

有給休暇はどのような労働者にも必ず与えなければいけないのか

年次有給休暇の権利は労働基準法第39条の所定の要件を満たした労働者に、法律上当然に生ずるものです。そして正規・非正規を問わず所定の日数付与しなければいけません。

年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、会社を欠勤すると賃金は減額されるのが普通ですが、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金がそのまま支給される休暇のことです。従って、病気のためとか理由を限定されることは無く、旅行に行ったり、単に家でぶらぶらしてても、パチンコに行くためでもかまいませんし、そもそも会社に理由を告げる必要はありません。

しかし、後述するように会社には日時をずらしてもらう権利がありますので、その際には、どうしてもこの日でなければならない理由を告げることが必要になるかもしれません。(法的には必要はありませんが、会社で仕事をする以上あまり突っぱねてしまうと後々やりづらくなってしまいますからほどほどにしましょう。)

年次有給休暇の付与要件

年次有給休暇は「雇い入れの日から6か月継続して勤務」し「その期間の全労働日の8割以上出勤した」労働者に対して付与されます。

一般労働者の年次有給休暇

上記の要件を満たした労働者には、10労働日の年次有給休暇が付与されます。

また、最初に年次有給休暇が付与された日からの「1年間の全労働日の8割以上出勤」した労働者に11労働日の年次有給休暇が付与されます。
その後同様に要件を満たすことにより、次の表1に示す日数が付与されます。(付与日数は最大20日まで)

条件を満たさなかった場合(出勤率が8割以下)その年は有給休暇を付与されませんが、翌年条件を満たせば1日プラスした日数が付与されます。
例:今年12日有給休暇をを付与されていたが病気をして、出勤率が8割に満たなかった場合、翌年は有給休暇はありません(本来は14日)が、その年に8割以上出勤すれば、その翌年(2年後)には16日が付与されます。(表1参照)

表1:一般の労働者(週所定労働時間が30時間以上、所定労働日数が週5日以上の労働者、又は1年間の所定労働日数が217日以上の労働者)の年次有給休暇付与日数

雇入れの日から起算した勤続期間 付与される休暇の日数
6か月 10
1年6か月 11
2年6か月 12
3年6か月 14
4年6か月 16
5年6か月 18
6年6か月以上 20

引用:政府発行資料 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html

パートやアルバイトなどの年次有給休暇

パートやアルバイトだからといって有給が無いと言うのは誤りです。パート労働者など、所定労働日数が少ない労働者についても所定の要件(上記の一般の労働者と同じ)を満たせば年次有給暇は付与されます。
ただし、上記の場合よりも少なく、次の表2のとおり比例的に付与されます。

表2:週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下、又は1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者の年次有給休暇付与日数。

週所定
労働日数
1年間の所定
労働日数
雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
4日 169日~216日 7 8 9 10 12 13 15
3日 121日~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73日~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48日~72日 1 2 2 2 3 3 3

引用:政府発行資料 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html

年次有給休暇の時季

年次有給休暇は、労働者が請求する日に与えなければならないと労働基準法で定められています。使用者は、労働者が請求した日に年次有給休暇を与えることが事業に支障がある場合にのみ、他の日に年次有給休暇を与えることができますが、年次有給休暇を与えないことはできません。

出勤率の算定方法(出勤率が8割未満の年は有給を与えなくて良い)

年次有給休暇は「雇い入れの日から6か月継続して勤務」し「その期間の全労働日の8割以上出勤した」労働者に対して付与されるので、逆に言うと出勤率が8割未満の場合は有給休暇を与える必要が無い事になりますので、使用者は出勤率の算定を正しく理解し、労働者に不利にならないようにする必要があります。

出勤率=出勤した日数÷全労働日

出勤した日とは通常通り出勤して、勤務した日以外に遅刻早退した日も含みます。
全労働日とは、暦日数から所定休日を除いた日です。

また、以下の場合は、出勤したものと見なします。
① 業務上の負傷・疾病による療養のため休業した期間
② 産前産後の女性が産前産後の休業を取った期間
③ 育児休業または介護休業をした期間
④ 年次有給休暇を取得した日

以下の場合は全労働日から除外する必要があります。
① 使用者の責に帰すべき事由による休業の日
②正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

有給休暇の取得率

2018年年末、エクスペディアが【世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018】発表しました。それによりますと日本の有給休暇取得率は50%。私の実感では、「結構多いな」という感じです。事実我が国の有休取得率の推移を見てみると昭和60年には51.6%その後バブル期には一時55%を超えるに至りましたが、バブル崩壊後の不況期になると50%を割り込むようになりました。その後景気回復期においても50%を超えることはありませんでした。ふたたび50%を超えたのが2018年となっています。(資料出所厚生労働省「就労条件総合調査」、「賃金労働時間制度等総合調査」(1999年まで) )

しかし、国際比較でみてみると最下位という結果でした。しかもワースト2のオーストラリア(取得率70%)と比較しても20%も劣っているのです。付与日数はまあまあ多いのに取得日数は10日間でこちらも、ワースト1位。取得出来ない利湯は職場環境にあるとの指摘が多く、事実労働者を対象にした調査でも「病気の時のために取っておく」、「他の人に迷惑がかかる」、「仕事が多すぎて休めない」、「休んだときの仕事をやってくれる人がいない」等です。また、業種や企業規模により取得率にはかなり差があります。

周囲に迷惑が掛かることを懸念して有給休暇を取れない労働者が多いということは、ほかのメンバーに負荷がかからない仕組みを作ることが必要かつ喫緊な課題ということをしめしています。一つの仕事を一人の人しかできないのでは無く複数人ができるようにし、交代制で担当できる様にしましょう。また、そもそも休暇を取れないほど業務が多いのであれば、その業務は本当に必要なのか見直すといったことも必要です。